「すみなれたからだで」読書レビュー
焼夷弾が降る戦時下、喧騒に呑まれる八十年代、そして黄昏ゆく〈いま〉――それぞれの時代で、手探りで生きる人々の「生」に、寄り添うように描かれた八つの物語。
無様に。
だけど、私は
まだ生きているのだ。
それぞれの年代が抱える、年代相応の問題に向き合いながら、日々繰り返される日常を描いた短編集。
実はこの作品は、作者の窪美澄さんに興味を惹かれて手に取りました。
過去に窪さんの作品で、「さよなら、ニルヴァーナ」という作品が大変印象に残っていたので。
こちらの作品は、神戸の酒鬼薔薇事件をモチーフに描かれたお話し。
少年犯罪の加害者、被害者遺族、加害者を崇拝する少女、そしてその環の外にたつ女性作家。
運命に抗えない人間たちの因果を描く、慟哭の物語!
この作家さんの他の作品を読んでみたい、と思える一作だったので、
今回の「すみなれたからだで」との出会いとなりました。
8作の短編が収録されているのですが、
実は、最初の2作を読んだ時点で、短編集といえども、スピンオフのように
主人公がスピンしながら同じ舞台で繰り広げられるお話しなのかな、
と思いながら読み進めていましたが、違いました。
巻末に記載されている、各作品の「初出」を確認しましたところ、
それぞれ異なる場面で発表されたもののようです。
私自身が、先日40歳になったんですが、
読み手がその年代だからか、
最初の2作、「父を山に棄てに行く」「インフルエンザの左岸から」が
あまりにずしんと響いてしまいまして、
文調は重くないのに、重いなー、とか感じて読み進めていましたが、
タイトルにもなっている「すみなれたからだで」で、少し気持ちが軽くなり、次は?次は?と読み進めました。
私は特に「銀紙色のアンタレス」と「猫と春」の2作の世界観が大好きです。
2作とも、若い子たちのお話しです。
すごく大きなできごとが起こるわけではないのに、
日常のちょっとしたこと、ちょっとした風景、ちょっとした交わり、
それらが積み重なって少しずつ大人になっていくんだなぁ、と
ほんわか感じます、おばちゃん目線では(笑)
いろんな世代のお話しが描かれていて、
どの世代の方が読まれても身近に感じる、人生のお友達のような1冊です。